先進的教育活動を行う大学附属小学校

「自主」「協同」「探究」の精神を育み鍛える「広島大学附属小学校」

広島電鉄宇品線「広大附属学校前」から徒歩1分。「広島大学附属小学校」は、初等普通教育を行うとともに、児童の特性を踏まえつつ、発達に即した教育を行っている。教科担任制や宿泊学習など、教科指導・総合学習双方に力を入れている学校だ。今回は創立116年を迎えた歴史ある「広島大学附属小学校」の第26代校長・間瀬先生にお話を伺った。

広島大学附属小学校
広島大学附属小学校

時代を切り拓く、歴史と伝統ある学校

――長い歴史のある広島大学附属小学校ですが、学校の歴史や概要について教えてください。

間瀬校長先生:1903(明治35)年に開校した「広島高等師範学校」の附属学校として、1905(明治38)年4月17日に本校の前身である「広島高等師範学校附属小学校」が開校しました。その後、原爆被災による校舎移転や改称を経て、1964(昭和39)年に現在地へ移転しました。 開校当初の児童数は10名程度でしたが、現在は全校児童384名が通っています。一学年2クラス制で、1クラス32名体制です。以前は40名クラスでしたが、個々の児童に対して細かく対応ができるように人数を減らしています。本校ならではだと思うのですが、各クラスを「1組」「2組」という呼び方ではなく、「1部」「2部」と呼びます。今では私たち教員も「組」と同じ意味合いで呼んでいますが、設立当初はそれぞれ異なったカリキュラムを導入していたから、という背景があるようです。戦時中には、理工科や特別科学教育を行う「3部」までありました。

2部2年の教室前
2部2年の教室前

間瀬校長先生:先生方にも特徴があって、戦前は、全国の師範学校から各教科の名人とも言える先生方が集まっていました。現在もその名残があって、全教員のうち半数は、広島県内はもちろん、福岡県や岐阜県などから研修として派遣されている先生方です。県をまたいで研修を受け入れている学校は全国でも珍しいかもしれないですね。基本的には各県にある国立大学教育学部の附属学校に研修に行くのが普通なので。本校が元々高等師範学校で、県を超えて先生たちが集っていた拠点校だったという歴史も関係しているのではないでしょうか。

間瀬校長先生
間瀬校長先生

自主的に行動できる人間形成へのアプローチ

――学校の教育方針や育成方針についてお聞かせください。

間瀬校長先生:本校の教育課程は三つの領域から作っています。 一つ目は、教科指導をきちんとすることです。本校は小学校ですが、入学したばかりの1年生から教科担任制を導入しています。先述したように、各教科のエキスパートが各県から集まるという歴史がありますので、やはり教科指導はオリジナリティを持ってやっていこうという方針はありますね。公立小学校のように担任の先生が全教科を教えてくれるという感じではないので、各教科の先生がいる教室へ移動して受ける授業も多くあります。

英語科の教室
英語科の教室

間瀬校長先生:二つ目は、教科を超えた総合的な学習に力を入れることです。本校では総合学習を1974年から導入し、独自に力を入れてきました。学習指導要領で「総合的な学習の時間」が必須項目となったのは1998(平成10)年ですから、それよりも24年前から行っているということです。総合学習の一環として行っている宿泊学習は、学校の中よりももっと色んなものに触れ合うことができ、学びも深まります。公立小学校だと、宿泊学習は5年生からが一般的ですが、本校では3年生からとしています。3・5年生は「海での学習」、4年生は「山での学習」、6年生は「研修旅行」があります。これは戦時中の話になりますが、本校児童は、現在の庄原市に疎開していたんです。だから誰も亡くならずに済みました。その時の縁で、毎年4年生は宿泊学習として、比婆山に登ったり、疎開先の全政寺の住職さんにお話を伺ったり、庄原市立西城小学校の児童と交流を深めたりしています。

三つ目は、子どもの自主的な活動を大切にすることです。特に4年生以上が参加する委員会活動を積極的に行っています。例えば、月に一度ある児童朝会では児童が進行役を行ったり、図書委員会では本の貸し出しルーティン、おすすめの本の投票、お昼の放送で本の一節を読み聞かせたりしています。

給食の献立用マグネット
給食の献立用マグネット

グローバルな人材育成への取り組み

――貴校ならではの設備や特に力を入れられていることはありますか。

間瀬校長先生:英語教育には特色があります。学習指導要領では、5、6年生で週2時間、3、4年生は英語の活動、1、2年生は特に指定なし、となっていますが、本校では1年生から6年生までカリキュラムを作って、英語科として学習しています。新しい教育課程(カリキュラム)を開発することが本校のミッションなので、2013(平成25)年には先立って英語科を取り入れています。ALTの先生にも来てもらって、どの学年にもネイティブの発音を感じさせるようにしています。また、ユネスコスクールの加盟校として、ESDおよびSDGsに関連した授業の開発や、グローバルな人材の育成などに取り組んでいます。

さらに、今年から校内のネットワークを強化し、全校児童にタブレットを支給しています。教科や先生によっては使用しないこともありますが、タブレットを活用して授業を受けています。私も1日に2回ほど校内を見回るのですが、授業中の光景が今までとはまるで違うことがあります。教室の後ろからクラスを見ますけど、全員がタブレットを開いてWindowsの青い画面がばぁーっと広がっている教室があります。児童たちはパワーポイントを使用して発表資料を作ったりしています。

タッチレス水栓で清潔に手洗い
タッチレス水栓で清潔に手洗い

今あるものを、絶やさず後世へ

――今後、新たに検討されている取り組みはありますか?

間瀬校長先生:毎月「学校教育」という月刊誌を発行しています。“新たに”というわけではないですが、これを絶やさないようにしたいですね。創刊が1914(大正3)年。戦時中に5年間くらい休刊になったんですが、それを除いても約100年間発行し続けています。執筆は、本校の教員や全国の大学の教員、あるいは他の学校の先生などに書いていただいていますが、編集は本校の先生方がやってくれています。自分たちの授業を担当しながらなので本当に大変だとは思いますが、全国の小学校教育の質的向上に寄与するため、今後も絶やさず続けていきたいです。

第1248号「学校教育」
第1248号「学校教育」

平和のモニュメントが点在し、創造力が養われる町

――校長先生が子どもたちと関わる上で大事にされていること、「こんな子どもに育ってほしい」といった思いをお聞かせください。

間瀬校長先生:学校目標である「自主」「協同」「探究」はどんなときでも大事にしてほしいですし、児童たちにはクリエイティブな心、創造力を養ってほしいなと思います。自主的にやった方が創造的になれるし、人と関わった方が創造的になれるし、自分で課題を見つけて探究していったほうが創造的になれます。ささいなことでもいいんです。今日の掃除は違うやり方でやってみようとか、自分たちで新しいゲームを考えて遊ぼうとか、普段の生活の中でも、授業中でももちろん、本当にちょっとしたことでいいんです。コロナ禍では人との関わりというものを奪われてしまいますが、この状況に負けないで、創造的な子どもに育ってほしいです。

敷地内にある慰霊碑
敷地内にある慰霊碑

――最後に、皆実町(翠町)エリアの、子育て・教育環境や住環境の魅力をお聞かせください。

間瀬校長先生:この周辺は下町っぽい雰囲気がありますよね。街と閑静な住宅街が共存しているような。そのなかに、ふと戦争遺跡みたいなものが現れるんです。皆実町六丁目の小さな公園に大きな塔が建っていて「何だろう、この塔は」と思っていました。元は日露戦争の戦勝記念の塔だったようですが、今は平和のモニュメントになっています。この辺りには平和について考えさせられるようなものがあちこちにあるという意外性が、私個人としてはとても魅力に思います。そういったなかで暮らす子どもたちは、創造力も豊かになるのではないでしょうか。

広島大学附属小学校

校長 間瀬 茂夫さん
所在地 :広島県広島市南区翠一丁目1-1
電話番号:082-251-9882
URL:https://www.hiroshima-u.ac.jp/fu_midori_shou
※この情報は2021(令和3)年7月時点のものです。