広島のまんが文化を発信し続け、老若男女問わず愛される図書館の魅力とは?/広島市まんが図書館 髙森館長

広島市比治山の豊かな自然の中に佇む「広島市まんが図書館」。日本全国でも珍しい“まんが”専門の公立図書館として1997(平成9)年の開館以来、まんが文化の普及や地域とのつながり、世代を超えた利用促進をテーマに独自の取り組みを続けている。今回は、館長を務める髙森正治さんに、図書館の成り立ちから現在の活動、そして図書館周辺地域の魅力や今後の展望まで、じっくりとお話を伺った。
普通の図書館から「まんが」に特化した理由とは?
――まずは、「広島市まんが図書館」の概要についてお聞かせください。
髙森さん:当館は1997年(平成9年)5月1日に開館しました。もともとは「広島市立比治山公園青空図書館」として開設された施設でしたが、南区に新たに図書館ができたことで利用者が減少し、議会などでの議論も経て、特色ある図書館として再スタートすることになったんです。そこで注目されたのが「まんが」でした。当時は、まんがに特化した公立図書館は全国的にもほとんど例がなく、大きな挑戦でしたが、それが功を奏して、今では安定した利用が続いています。

髙森さん:建物も特徴的で、隣接する広島市現代美術館と同じく黒川紀章さんの設計事務所が手がけており、光の入り方で見え方が変わるユニークな外観が魅力です。館内には約17万冊の蔵書がありますが、実際に閲覧室に並べられているのは約5万4千冊。残りは書庫に保管され、利用者のリクエストに応じて提供しています。
「はだしのゲン」が拓いた教育とまんがの接点
――広島という地域性と、まんがとの関係についてはいかがでしょうか?
髙森さん:広島にゆかりのある作品として真っ先に挙がるのが『はだしのゲン』です。最初は少年ジャンプに連載されていたもので、子ども向けと思われがちなまんがが、社会的・教育的な価値を持つ作品として評価された先駆け的な存在です。この作品を通して、まんがが単なる娯楽ではなく、社会や歴史を語る手段にもなり得るということが認識されるようになったと思います。

髙森さん:このような背景から、当館では広島ゆかりの作家の作品や、原爆や平和に関するまんがを集めた「広島コーナー」も設けています。かわぐちかいじさんなど、地元作家の作品も人気ですね。

子どもから大人まで楽しめる“多層的”な図書館運営
――子どもから大人まで幅広い世代が利用されていると思いますが、ファミリー層や子育て世帯の利用状況、子ども向けサービスについて教えてください。
髙森さん:貸し出し冊数で見ると、最も多いのは40代の利用者です。10代が27%を占める一方で、20代はわずか4%と少ないのですが、30代からまた増え、40代でピークに達します。小さなお子さん連れのファミリーも多く訪れますね。

髙森さん:図書館としても、年齢層に応じたコーナーを設置しています。例えば、小学生向け、中高生向けそれぞれの「人気者コーナー」や、大人向けの読み応えのある作品の提供など、利用者の幅広いニーズに応える工夫をしています。加えて、館内では閲覧専用のセット作品などもあり、読みたい作品をその場で一気に読む楽しさも体験できます。

髙森さん:また、幼児向けの絵本も一部そろえており、子育て世帯にもご利用いただけるよう配慮しています。春と秋には広場でおはなし会も実施しており、近隣の保育園や子どもたちが楽しみにしてくれています。
地域とともに育む、まんが図書館の役割
――図書館周辺の地域とのつながりについても教えてください。
髙森さん:地域との連携はとても大切にしています。たとえば、近隣の学校がフィールドワークの一環で来館し、図書館の見学や学習発表を行う機会があります。また、「かっぱ祭り」など地域のイベントにも参加して、図書館としての出張協力や挨拶などを行っています。
加えて、比治山公園で行われる大規模イベント「あっ“たまる”比治山」には、当館のまんが資料を提供し、会場で自由に読めるようにしています。こうした取り組みを通して、図書館の枠を越えて“まんが”を身近な文化として地域に届けたいと考えています。
まんが文化の“発信拠点”としてのイベント展開
――図書館で行っているイベントについて教えてください。
髙森さん:毎年開催しているのが「おもしろその年まんが大賞」です。これは、その年の出来事を題材にしたまんがを全国から公募するもので、プロ・アマ問わず多くの方に参加していただいています。受賞作品は図書館のエントランスで展示し、コピーを市内の公民館などでも閲覧できるようにしています。毎年リピーターも多く、すっかり定着したイベントですね。

髙森さん:また、イラスト講座や4コマまんが講座など、体験型の講座も人気です。小学生から中高生までを対象に、描く楽しさを伝える場を提供しています。イベント会場のキャパシティの都合上、市内の他施設を使うこともありますが、まんがを読むだけでなく、創る喜びも伝えられるようにしています。

比治山の自然と歴史に囲まれた、静けさと利便性の共存
――館長さんご自身から見て、図書館のある比治山や皆実町周辺の魅力はどのようなところにあると感じますか?
髙森さん:このエリアは、本当に静かで落ち着いた空間です。まるで都会の中のオアシスのような雰囲気があります。すぐ近くに「広島市現代美術館」や「広島」駅があり、利便性と自然の豊かさが同居しているんです。
また、近隣には京橋川や鶴見橋といった美しい川辺の風景もあり、館外を散歩するだけでも癒されます。特に京橋川沿いの緑地は、空と雲と川のバランスが美しく、他の都市ではなかなか見られない風景だと思います。

このエリアに住む方へ、まんが図書館からのメッセージ
――これからこのエリアに住みたいと考えている方々にメッセージをお願いいたします。
髙森さん:皆実町周辺は、とても住みやすいエリアだと思います。大型商業施設の「ゆめタウン広島」や、南区役所、文化センター、医療機関も近くにそろっており、生活の利便性が高いのが特徴です。昭和の面影を残す街並みもあり、どこか懐かしさを感じられるのも魅力ですね。
ぜひ、比治山に足を運んでいただき、まんが図書館にも立ち寄ってみてください。まんがを通して、きっと新しい広島の魅力を発見できると思います。

広島市まんが図書館
館長 髙森 正治さん
所在地:広島県広島市南区比治山公園1-4
電話番号:082-261-0330
URL:https://www.library.city.hiroshima.jp/manga/index.html
※この情報は2025(令和7)年9月時点のものです。
